「数字だけじゃ伝わらない」これは、どんなディレクターも一度はぶつかる壁です。
Google Analytics、GA4、SNSのインサイト……数字は山ほどあるのに、提案書が“通らない”。
逆に、感情的なスライド構成にすると、「根拠が弱い」と跳ね返される。
僕自身も新人の頃、この“数字と説得のバランス”で何度も失敗しました。
どんなに分析しても「ふーん」で終わる。どんなに熱く語っても「エビデンスは?」で詰まる。
そのなかで掴んだ答えが、「数値×ストーリー」=“人が動くロジック”です。
数字を使ってストーリーを語り、ストーリーで数字に実感を与える。
この掛け合わせが、提案書を「伝わる」から「動く」に変える鍵になります。
目次
「数字の手触り」を取り戻す
数字は、見せ方を間違えると“現場の手触り”を失います。
スプレッドシート上の0.3%や3.5秒に、人の行動の実感が消えてしまう。
だから僕は、数字を出すときに必ず「現場の映像を添える」つもりで書きます。
たとえば、
「平均滞在時間が20%増えました」
ではなく、
「1人あたり、約30秒長くページに留まるようになりました」
と表現する。
この“30秒”には、「ユーザーが商品画像をもう一枚見る」「比較表を最後まで読む」といった行動の絵が浮かびます。
数字に“手触り”が戻る。
僕はこの小さな書き換えを、「データの翻訳」と呼んでいます。
数値を、人の行動に翻訳する。
それができるディレクターは、クライアントに「数字が生きている」と感じさせることができるんです。
数字にストーリーをつける「4つの線」
提案書を“物語”として読ませるには、数字の点を線に変える必要があります。
僕がよく使うのが、この4ステップの構造です。
現状 → 課題 → 仮説 → 打ち手
たとえば、ある製品ページでCTRが低下していたとします。
現状:クリック率が昨対比で15%減少
課題:LPの情報量が増え、主要CTAの視認性が下がっている
仮説:CTA位置がスクロール深く、離脱が増えている可能性
打ち手:CTAを1スクロール上に配置 → ABテストを実施
この流れをスライド1枚で描くだけで、見る側は「なぜそう考えたか」「次に何をすればいいか」を直感的に理解できます。
数字は文脈を得て、説得力のある“線”になる。
さらに、提案の一貫性を持たせるために僕がよくやるのが、
「1ストーリー=1グラフ」の原則です。
1枚のグラフに複数のメッセージを詰め込むと、受け手は混乱します。
むしろ、グラフは“語る”より“語らせる”。
1本の線で「ここが転換点です」と見せるだけで、相手は自然とその変化を物語として読み取ります。
“数値が冷たく見える提案書”の共通点
数字の説得力がない提案書には、いくつかのパターンがあります。
1️⃣ 数字の“孤立”
データが並んでいるだけで、文脈がない。
例:「直帰率40%」「CTR1.2%」「CVR0.4%」で、何が言いたいの?となる。
2️⃣ “比較の軸”がない
「前回比」「業界平均」「類似ページ」など、基準がないまま数字を出す。
数字は相対評価で意味を持ちます。基準のない数字は空中を漂うだけ。
3️⃣ “行動の翻訳”がない
「CTRが上がった」だけでは“だから何”になる。
「上がった理由」「そのときユーザーが何をしていたか」を描くことが、数字に物語を与える。
この3つを潰すだけで、提案書の温度が一気に上がります。
数字が“生きている”と感じられるんです。
「仮説」と「検証」で完結しない提案書を
多くの提案書は、「仮説」と「施策提案」で終わっています。
でもそれだけでは、“やってみよう”の後押しにはなりません。
僕がよく入れるのは、「検証シミュレーション」の1ページ。
Excelでもスプレッドシートでもいい。
ABテスト後の想定結果を、3パターンで見せます。
・パターンA:CTR +10% → CVR +5%(改善見込み)
・パターンB:CTR ±0% → CVR +2%(微増)
・パターンC:CTR -5% → CVR ±0%(効果薄)
「最悪でも大損はしない」「一度やってみる価値がある」と見せられる。
数字の冷たさを、“可能性の温度”に変えるステップです。
ストーリーで引き込む「プレゼンの呼吸」
提案書を読むクライアントは、たいてい時間がない。
だからこそ、“呼吸のいい構成”が必要です。
僕は必ず「数字→行動→感情」の順で並べます。
① 数字:データから事実を出す
② 行動:そのときのユーザー行動を描く
③ 感情:ユーザーが何を感じたかを添える
たとえば、
「クリック率が上がった」ではなく、
「“比較表を見て安心したから”クリック率が上がった」。
こう書くだけで、数字が“人の行動”に結びつきます。
この構成を保つだけで、プレゼン中も呼吸が途切れない。
数字を追うだけの会話から、ストーリーで共感を作る会話に変わります。
“数字で語れるチーム”をつくる
提案書づくりを個人技にせず、チーム文化にするのも大事です。
僕のチームでは、「数字×ストーリーの下書き会」という30分の定例を週1でやっています。
メンバーがそれぞれの案件データを持ち寄り、
「この数字、何を語ってると思う?」と問いかける。
そこから「実はユーザーが迷ってる」「ブランドページ経由が増えてる」など、ストーリーが生まれる。
この習慣を始めてから、みんなの数字の読み方が変わりました。
以前は「上がった・下がった」で終わっていた報告が、
「どう行動が変わったか」まで踏み込めるようになったんです。
提案書を“作る人”ではなく、“語れる人”が増える。
それが、現場に厚みを持たせます。
データが“人を動かす瞬間”
僕が印象に残っている案件があります。
あるクライアントの新製品サイトで、PVは好調なのにコンバージョンが伸び悩んでいた。
会議では「デザインのせい」「価格が高い」といった感覚論が飛び交っていたんですが、
GA4のデータを分析すると、「比較表ページ」での離脱が極端に多かった。
僕はそこで、1枚のグラフを出しました。
「比較表→商品詳細」への遷移率が他ページの半分以下。
そこに“手触り”を持たせてこう言いました。
「比較の途中で離脱している、ということは“迷いの途中”で諦めている可能性があります。」
この一言で会議の空気が変わった。
「じゃあ、比較表に“おすすめ”の一言を入れてみよう」と話が進み、
実施後1か月でCVRが1.5倍に伸びたんです。
数字が人を動かすとは、こういう瞬間です。
データを“語らせる”だけでなく、“語りたくなる”流れを作ることが、ディレクターの腕の見せどころだと思います。
「数値×ストーリー」は、技術ではなく習慣
数字を扱うスキルよりも大事なのは、“数字を語る習慣”です。
提案書を作るたびに「この数字の裏に、人はどんな行動をしていたか?」と考える。
それを繰り返すと、自然に数字に“温度”が宿ります。
クライアントに刺さる提案書は、派手なスライドでも、高価なツールでもなく、
「人の行動を感じるデータ」から生まれる。
ディレクターの仕事は、数字を“報告する”ことではなく、
数字の中にある“物語”を見つけ出して伝えることです。
それができれば、提案書は単なる資料ではなく、“次の行動を生む起点”になります。

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