なぜWebディレクターになったのか 現役が語る“はじまり”と1年目のリアル

なぜWebディレクターになったのか 現役が語る“はじまり”と1年目のリアル

制作現場で、私はいつも誰より先に“音”に気づく。
椅子のわずかなきしみ。
誰かが息を整える瞬間。
会議室の隅で交わされる短い囁き。

それらは、完成物には残らない。
資料にも議事録にも書かれない。
けれど、プロジェクトの方向を変える力を持っている。

私が“裏方の仕事”に惹かれたのは、
そんな見えない動きに心が引っかかったからだ。
派手なプレゼンよりも、
淡々と資料を整える時間のほうに落ち着きを感じた。
怒号が飛び交う会議よりも、沈黙の間合いが気になった。

“記録すること”を仕事にしようと決めたのは、
表舞台では語られない“裏側の会話”が、
現場の未来をつくっていると知ったからだ。

ここから先は、“裏方”として制作現場を歩き始めた私が、
なぜこの道を選んだのか、そして1年目のどこで立ち止まり、
何を見て、何を拾ってきたのか…そんな話だ。

私が裏方の仕事に惹かれた瞬間 “誰も気づかない一言”に救われた日

制作会社に入って最初の一年。
私は、とにかく必死に“正解”を集めようとしていた。
議事録の書き方、クライアントへの返信文、スケジュール表の作り方。
できるだけ丁寧に、できるだけ早く、できるだけ多く。

だが、どれだけ整えても、何かがずれていく。
会議で話していた内容と、実際のタスクが途中で噛み合わなくなる。
誰が判断したのかわからない仕様変更が、
突然スレッドに流れてくる。
チームの空気が濁る原因を、私は掴めずにいた。

ある日、先輩ディレクターが私に言った。

「“何を決めたか”じゃなくて、
“どうしてそうなったか”をメモするほうが大事だよ。」

その一言で、私は目が覚めた気がした。
私は“結果の記録”しか取っていなかったのだ。
しかし先輩は、“会話の流れ”を記録していた。

「この仕様に変わったのは、デザイナーが△△の懸念を示したから」
「このタスクが先になったのは、クライアントの優先度が変わったから」

そうした“背景の小さな記録”が、
現場の空気を澄ませるのだと知った。
その日から私は、会議で話す人の顔ではなく、
話さなかった人の視線や、
机に置かれた手の動きに目を向けるようになった。

裏方という役割は、
誰よりも静かに“空気の流れ”を感じ取る仕事だと思った。
そして私は、その静けさに惹かれた。

1年目の私は、“できるふり”ばかりしていた

裏方の仕事に魅力を感じたとはいえ、
1年目の私は決して落ち着いていなかった。
むしろ必死で、焦って、
本当の自分を隠そうとしていたと思う。

わからないことが怖かった。
何も言えないまま会議が終わるのが怖かった。
“新人なのにできない”と見られることが、
何よりも辛かった。

ある会議で、デザイナーが私にこう言った。

「さっきの説明、少しずれている気がする。
たぶん、クライアントの意図はこうだと思う。」

私はその瞬間、自分が間違ったのだと感じた。
そして同時に、彼の声の裏にある“ためらい”を感じた。
私の顔色を気にしながら言葉を選んでいるのが、空気でわかった。

そのやさしさが苦しかったし、ありがたかった。
そして思った。
「私が説明を整えれば、この人は安心して話せるのだろうか」と。

“裏方でいたい”という気持ちは、
“誰かのために整えたい”という願いから始まったのだと思う。

記録に救われた “自分の足跡”を残したとき、仕事が変わった

1年目の終盤、私はようやく“記録すること”の意味を理解した。
ミスが続き、何度も同じところでつまずき、
自信がなくなりかけていたとき。

先輩が私の書いた雑なメモを見て、こう言った。

「これ、すごくいいね。あなたの視点がちゃんと残ってる。」

私は驚いた。
そのメモは急いで書いた走り書きで、
誰かに見せるつもりもなかった。

だが先輩は言う。

「完璧じゃなくていいの。
その時のあなたの理解と“気になったこと”が残っていれば。」

私は初めて、記録が“役割”ではなく“自分の言葉”になった瞬間を感じた。
それから、私は会議の背景や、誰の声が通ったのか、
どこに違和感があったのかを書き残すようになった。

記録は過去をなぞる作業ではない。
その瞬間の空気や、判断が揺れた場面を
“未来の誰かに手渡す行為”だと思うようになった。

そう考えたとき、裏方としての“居場所”が自然と生まれた。

裏方であることは、誇りになる

気づけば私は、フロントに立つ役割よりも、
チームの背中に立つ役割を選ぶようになっていた。
それは逃げではなく、“向いていた”のだと思う。

裏方の仕事は、派手ではない。
資料を整え、記録を残し、人と人の間を滑らかにするだけ。
けれど、その仕事があることで、
誰かが安心して前に進める。

ある日、新人ディレクターが私に言った。

「黒川さんが残してくれたメモのおかげで、
どこから手をつければいいか分かりました。」

その言葉を聞いた瞬間、
私の1年目の苦しさも、迷いも、
すべて“誰かを導く経験”に変わったように思えた。

裏方とは、
光を浴びる人を支えるだけの役割ではない。
現場の記憶をつなぎ、人が働く道を滑らかにする仕事だ。

私はその静かな役割に魅力を感じ、
今もこの場所に立ち続けている。

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投稿者

黒川 結衣
黒川 結衣
業界誌の編集者を経て独立。取材・インタビューを中心に、Web制作現場の“リアル”を記録し続けている。現場で働くディレクターやクリエイターの声を掘り下げ、チームカルチャーや業界トレンドの変化を丁寧に伝える記事で支持を集める。