未経験からどう一歩目を作るか 現役ディレクターが“最初の壁”に答える特集

デザインができない僕でもディレクターになれた 未経験者に必要な“観察の練習”

Webディレクターという職業には、どこか“センスがある人の仕事”という印象がつきまといます。
デザイナーではなくても、「UIが分からないと務まらないのでは?」「デザインができないとレビューに参加できないのでは?」と不安になる新人は決して少なくありません。僕自身も、1年目の頃はまさにその気持ちでした。色彩もレイアウトも語れず、プロトタイプを前に言葉が出てこない。そんな自分に焦りを抱き続けていました。

けれど、いま振り返ると、UIやデザインの知識より先に、
「観察の仕方」を身につけたことが、ディレクターとしての土台をつくってくれました。
センスのあるなしではなく、“どこを見るか”を自分の中に定着させる。
この練習だけで、デザインができなくても現場で十分に戦えるようになります。

今回は、未経験からディレクターを目指す人へ向けて、
明日から実践できる「観察」の方法と、半年後の大きな変化につながる視点を紹介します。

未経験者が“最初の半年”を乗り切るための観察練習

1. 最初に身につけるべきは「正解」ではなく「視線の置き方」

新人がつまずく理由の多くは、“デザイン=正解がある”と思ってしまうことです。
もちろん、UIの原則やガイドラインは存在します。ただ、最初の半年で必要なのはそれではありません。
「どこに目を向けるか」を決めることのほうが、圧倒的に効果があります。

たとえば、普段使っているアプリやサイトを開き、次の三つだけを意識してみてください。

  1. 最初に目が吸い寄せられた場所
  2. 次に押したくなった位置
  3. その動きの“理由”を自分なりに言語化してみる

これは専門知識がなくてもできる練習です。
視線の流れ、要素の配置、タップしたくなる導線。
こうした“体験の動き”を捉える視点だけで、レビューの目は驚くほど変わります。

2. 「余白」を見る癖がつくと、デザインの理解が速くなる

デザインを不得意に感じる新人は、どうしても“形”に目が行きがちです。
ボタンの色、要素の大きさ、アイコンの種類……。

けれど、デザイン理解の初期でこそ大切なのは、
「要素そのものではなく、要素の間にある余白」を見ることです。

余白は、UIの中でユーザーの視線を導く一種の“道”です。
その広がり方によって、画面は落ち着いた印象にも、せわしない印象にも変わります。

観察の練習としては、次の問いが役に立ちます。

  • この画面は、どこに“休ませる間”があるか
  • 情報の塊は均等に整理されているか
  • 行間や要素間が、自然な“間”を生んでいるか

デザインが分からないと感じる人こそ、“形”よりも“空気の流れ”のほうが理解しやすい。
これが、ディレクターとしての目を大きく育ててくれます。

3. UIは「構造」から読むと、急に分かりやすくなる

未経験の方から「UIが難しい」という声を聞くたびに感じるのは、
UI=デザインと捉えてしまっているケースが多いということです。

けれどUIの本質は、「ユーザーが目的を達成するための構造」です。
だから、初期の学習では“構造”を優先して読み解くほうが分かりやすい。

具体的には、画面やワイヤーを次の三層で見る癖を付けると理解が早くなります。

  • 導線(どこへ進むのか)
  • 情報(目的に対して何が示されているか)
  • 操作(ユーザーは何をする必要があるか)

全体の形よりも、この三層の関係を読み解く。
すると「UIが分からない」という感覚が薄れ、
“体験の流れ”として捉えられるようになります。

ディレクターは必ずしもデザインができる必要はありません。
構造を正しく読み取れるかどうか、そこが最初の勝負です。

4. 未経験者におすすめの“観察の道具”

明日から使える、シンプルで効果の高い道具をいくつか紹介します。

  • 画面キャプチャアプリ(PC・スマホ問わず)
     気づきを保存するだけで観察が深まる。
  • 観察ノート(紙・デジタルどちらでも)
     毎日の“視線の気づき”を書き留めるため。
  • Figmaの無料アカウント
     編集ではなく、プロトタイプの閲覧だけで十分。
     UIを“動き”として理解する練習になる。
  • 事例サイトのブックマーク
     良いUIは言葉で学ぶより、実物で触れたほうが吸収が早い。

資格でも、厚い参考書でもありません。
観察を習慣化するための道具が、半年後のあなたを変えてくれます。

“デザインができない”と悩んでいた僕を変えたのは、ひとつの問いだった

僕がディレクターになりたての頃、
「デザインが分からない自分は向いていないのでは?」
と、本気で悩んだ時期がありました。

レビューの場ではベテランの先輩が画面を次々と読み解き、
「ここは視線が止まる位置だね」
「導線が途中で途切れている」
と、迷いなくコメントしていく。

一方の僕は、色や配置の美しさしか目に入らない。
“間”を見ることも、構造を読むこともできなかったのです。

そんなある日、先輩がふと僕にこんな問いを投げかけました。
「海斗は、この画面で一番押したくなる場所はどこ?」
驚くほどシンプルな問いでした。
でも、その時の僕には鮮やかに刺さった。

僕は画面をじっと見て、
「……ここです。最初に目が行ったので」
と答えた。その答えに先輩は頷き、
「それでいい。まずは“自分の目”を信じるところから始めよう」
と言ってくれました。

それが、僕の転機でした。

デザインが分からないのではなく、
“見ようとしていなかった”だけだった。
そこに気づけたことで、自分の体験を観察する姿勢が育ち始めました。

その後、僕はひたすら観察ノートを書きました。
どのアプリで、何に迷い、どこで安心したか。
どの導線で躊躇し、どのボタンなら迷わず押せるのか。
毎日の気づきは短い文章でしたが、積み重ねるほど視点が増えていった。

半年ほど経った頃、先輩のレビューに同席したとき、
「この画面は少しだけ目的が見えにくい気がします。
 最初の視線が散ってしまうので…」
と、自分からコメントできた瞬間がありました。

その時、先輩は笑いながら
「もう大丈夫だね。海斗は“目”が育ってるよ」
と言ってくれた。

僕はデザインができるわけではありません。
でも“観察の習慣”のおかげで、体験の流れを掴む力が育ち、
ディレクションの場で自分の言葉を持てるようになったのです。

もし今、「自分はデザインができない」と悩んでいる未経験者がいたら、
どうか焦らないでください。
必要なのは才能ではなく、自分の目の動きに気づく練習だけです。
それが、ディレクターとしての最初の一歩になります。

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投稿者

中村 海斗
中村 海斗
デザイナーからUXライターへ転身。構成と表現のバランス感覚に優れ、デザインの意図を“言葉”として翻訳することを得意とする。デザインとライティングの橋渡し役として、UIテキストや構成設計、トーン&マナーの整備を支援している。