1〜3年目の若手が過ぎようとすると、
デザインレビューの見え方が少し変わってきます。
最初の頃は「UIを見るのが難しい」「構造を読むのが精一杯」だったのが、
気づくと「もっと広い視点で読めるようになりたい」と感じるようになる。
これは役割が変わり始めているサインです。
若手は“画面”を読めば十分ですが、
中堅に差しかかると必要なのは、
“デザインの意図同士の重なり”を読めることです。
・デザイナーが考える体験の意図
・PMが求めるプロダクトの意図
・クライアントが求める成果の意図
・ユーザーが求める価値の意図
これらはときに違い、時には競合し、重なり合いながらプロダクトを形づくります。
中堅に求められるのは、
この“重なり”を読み解き、
デザイナーと同じ視座で議論ができる若手へと変わることです。
第20回は、役割が広がり始めた若手が
中堅の入口に立つためのデザインの読み方をまとめます。
目次
中堅に向けた「意図をまたいで読む」デザイン読解
1. 若手は「ひとつの意図」を読む。中堅は「複数の意図」を重ねて読む。
若手の頃のレビューは、
「この画面は何を狙っているか?」
を一つひとつ確かめる段階でした。
しかし役割が広がり始めると、
ひとつの画面でも“複数の意図”が同時に存在していることに気づきます。
- デザイナーは 体験の流れ を守ろうとしている
- PMは 機能要件 の優先度を崩したくない
- クライアントは 成果数値 を上げたい
- ユーザーは 迷わずに使いたい
この意図が重なるところが“デザインの芯”になります。
中堅の読み方とは、
「各意図がどこで重なり、どこですれ違っているか」
を言語化できること。
レビューで
「この画面の意図は〇〇ですが、△△の観点ではズレが生じています」
と言える若手は、急に周囲からの信頼が高まります。
2. 「意図の層」を図にしてみると、レビューの軸がぶれない
複数の意図を同時に扱うと混乱しがちです。
そこでおすすめなのが、
“意図の層”を3段階で書き出すこと。
- 体験レベルの意図(ユーザー体験の方向)
例:安心して進める、迷わず目的地へ、段階的に理解する - プロダクトレベルの意図(サービスとしての成果)
例:会員登録へ導く、継続率を上げる、離脱を減らす - 事業レベルの意図(ビジネス全体の狙い)
例:ブランドの信頼を上げる、新規ユーザー拡大
若手は“体験レベル”だけ見れば十分ですが、
中堅に差しかかると、この三層を同時に扱う場面が増えます。
たとえば…
「この導線は体験としては自然だけど、
プロダクトレベルの意図(会員登録を増やす)とは距離がある」
こんな言葉が出てくると、
周囲から見えるあなたの立ち位置は“若手”ではありません。
3. 「意図の衝突」をどう扱うかが、中堅の壁
役割が広がると最初に戸惑うのが、
“意図同士が衝突している場面”です。
よくあるケースは…
- UX観点では情報を減らしたい
- でもPMは要件として情報を増やしたい
- クライアントは説明を厚くしたい
- ユーザーは早く進みたい
こうした“衝突”に直面すると、若手は迷い、
「どこから手をつけるべきだろう…」と立ち止まります。
中堅に進むための最初の鍵は、
衝突を理解したうえで、“落としどころ”の方向を示せるかです。
たとえば…
「体験レベルの意図は維持しつつ、
要件レベルの情報を折り込む構成にしましょう。
そのために、情報を段階化して提示する案はどうでしょうか?」
衝突を“良い設計のきっかけ”に変えられる人は、
信頼されるディレクターになります。
4. コメントは“意図の束”をほどいてから伝える
中堅に必要なコメントとは、
意図の束をほどいてから言葉にするコメントです。
悪い例:
「情報量が多くて読みにくいです」
「このボタンはもっと目立たせたほうがいいと思います」
これは若手レベルのコメントです。
中堅のコメントはこうなります。
良い例:
「体験レベルの意図は“迷いを減らすこと”だと思います。
一方、事業レベルでは説明を厚くしたい背景があります。
この2つの意図が摩擦しているので、
情報の出し方を段階的にする案を検討したいです。」
意図を“ほどいて再構築する”コメントは、
デザイナーからもPMからも信頼される技術です。
5. 若手から中堅への転換点は、“意図の視野”が広がる瞬間
UIが読めるようになり、構造が理解できるようになった若手は、
次の段階では“どの意図を見るか”の視野が広がります。
この“視野の広がり”こそが
若手を中堅へ押し上げる変化です。
僕がよく若手に伝えているのは、
「画面を見る前に、意図の地図を描いてみよう」 ということ。
- この画面は誰のために存在しているのか
- 最優先の意図はどれか
- 他の意図がどう重なっているか
この3つが整理できれば、コメントも判断も格段に変わります。
役割が広がった時、初めて“意図の重なり”が読めた日のこと
僕が役割の広がりを感じたのは、
2〜3年目のある大型プロジェクトでした。
ある画面のレビューで、
僕はいつも通り“体験の意図”を中心に話していました。
「ここは初回ユーザーが迷わないようにしたいので——」
すると、デザイナーではなくPMがこう言ったのです。
「海斗、それは体験としては正しい。でも事業としては“登録率”を優先したいんだ。」
その瞬間、頭の中で“意図の層”が切り替わり、
一枚の画面に複数の意図が重なっていることが急に見えました。
- UX観点では“迷いを減らす”意図
- プロダクト観点では“登録へ誘導したい”意図
- クライアント観点では“安心感を与えたい”意図
当時の僕は、
“ひとつの意図”で世界を見ていたことに気づきました。
レビュー後、僕は静かに画面を見つめ直し、
初めて「意図の地図」を描いてみました。
- 入口 → 説明 → 登録導線
- 体験レベルの意図
- プロダクトレベルの意図
- 事業レベルの意図
- それぞれがどこで重なり、どこですれ違うか
それを翌日のミーティングで共有したところ、
デザイナーがこう言ってくれました。
「海斗、その視点があればもう大丈夫だよ。」
あの一言は今でも忘れられません。
自分が“役割の枠”を越えた瞬間だったからです。
それ以来、僕のレビューは変わりました。
コメントは、
“違和感を並べる”のではなく、
意図を重ね合わせて解く作業になった。
議論は、
“表面の揺れ”ではなく、
デザインの軸をどう整えるかを話す時間になった。
若手から中堅に求められるのは、
特別な才能でも、急激なスキルアップでもありません。
ひとつの画面に複数の意図が流れていることに気づき、
それぞれの“理由”を丁寧に拾い上げられる姿勢です。
視野が縦にも横にも伸びていくと、
レビューの精度は自然と変わります。
コメントは“表面を整える話”から、
デザインの方向性を共に整える対話へと変わっていきます。
その変化を何度か経験するうちに、
あなたの言葉は、チームにとって
“判断の基準”として扱われるようになります。
気づいた時には、もう
自分の役割が広がっている。
中堅とは、肩書きでも年次でもなく、
視野の深まりが自然と連れてきてくれる位置なんだと思います。
あなたの観察が積み重なったその先には、
必ず新しい景色が待っています。
そしてそれは、他の誰でもなく、
あなた自身がつかんだ“役割の形”です。

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