入社前に先輩からひとつだけ伝えるとしたら、たぶんこれです。
数字はすぐ分からなくていい。
こう言うと、勉強しなくていいとか、考えなくていいという意味に聞こえるかもしれません。
でもそうではありません。
入社前の時期は、不安になるのが普通です。
ツールはどこまで覚えておくべきか。
数字はどれくらい読めないといけないのか。
現場についていけるのか。
真面目な人ほど、こうした不安を先回りして抱えます。
だからこそ、先にひとつだけ現実を伝えておきたい。
現場に入った瞬間から、数字が自然に分かる人はいません。
それは能力の差ではなく、仕事の進み方の問題です。
この回では、数字の読み方は教えません。
強い励ましもしません。
入社前に知っておくだけで、少しだけ肩の力が抜ける現実をひとつ渡す。
それがこの回の役割です。
入社前に 想像しがちな「できる人」
入社前に思い描く「できる人」のイメージは、だいたい決まっています。
数字を見た瞬間に意味が分かる人。
会議でグラフが出たら、自然に意見を言える人。
課題と改善案を迷わず口にできる人。
そういう姿を想像すると、そこに届いていない自分はダメなのではないかと感じてしまいます。
でもそれは、現場の一場面だけを切り取ったイメージです。
実際の仕事では、数字は突然出てきます。
前提が共有されないまま話が進むこともありますし、結論が決まらないまま次に持ち越されることもあります。
その場で数字を見て、正直よく分からないと感じることは普通にあります。
違いがあるとすれば、分からない状態に慣れているかどうかです。
最初から分かっている人はいません。
分からない状態で仕事を進める経験を積んでいる人がいるだけです。
だから入社前の時点で、数字が分からない自分を問題にしなくていい。
その状態は、最初から想定内です。
現場では 数字は「途中」で出てくる
現場に入ると、数字は完成形で出てくるとは限りません。
施策が固まる前、判断が決まりきっていない途中、方向性が揺れている段階でも数字は共有されます。
「参考として見ておこう」「一応出しておくね」といった言葉と一緒に出てくる数字は、まだ意味が確定していないことも多いです。
このとき、分からないまま進んでしまったと感じる人がいます。
でも実際には、分からない状態を含んだまま進むのが現場の通常運転です。
問題になるのは、分からないことそのものではありません。
分からない状態を、自分の問題だと思い込んでしまうことです。
分からないままでも 仕事は始まる
もうひとつ、入社前の人に伝えておきたいことがあります。
仕事は、分かってから始まるわけではありません。
分からないまま始まり、分からないまま進み、途中で少しずつ拾われていきます。
これは雑な仕事の話ではなく、情報量が多い仕事ほど起きやすい構造です。
最初に求められているのは、正確な分析でも鋭い意見でもありません。
状況を見ていること、分からないことを自覚していること、必要なときに立ち止まれること。
それだけで十分です。
全部分かるようになってから現場に行こうと思わなくていい。
分からない状態で立つことは、失敗ではありません。
それは仕事を始める前提です。
コラム|最初は「何が分からないか」も分からなかった
入社してしばらくの間、僕は「分からない」という感覚に名前をつけられませんでした。
数字を見ても、ここが分からないとは言えないけれど、分かったとも言えない。
そんな状態が続いていました。
会議で数字が出るたびに、何か言わなければいけない気がする。
でも、何を言えばいいのか分からない。
今振り返ると、あの頃の僕は数字が分からなかったというより、自分が何を求められているのかが分かっていなかったのだと思います。
周りを見ると、先輩たちは普通に話しているように見えました。
数字を見て意見を言い、判断しているように見えた。
だから自分だけが遅れていると感じやすくなっていたのだと思います。
でも今なら分かります。
先輩たちも、すべてを理解して話していたわけではありません。
分からない部分を抱えたまま話すことに慣れていただけです。
当時の僕は、分からない状態で話すことが怖かった。
間違えたらどうしよう、的外れだったらどうしよう。
そう考えて、何も言わない選択をしていました。
その結果、数字は余計に分からなくなりました。
後から分かったのは、分からない状態を外に出さなければ、誰にも拾われないということです。
分からない数字は、声に出されなければ存在しないのと同じでした。
あるとき、会議のあとに先輩から「さっきの数字、どう思った」と聞かれました。
正直に「よく分からなかったです」と答えたところ、先輩は「だよね。あれはまだ判断できる段階じゃないから」と言いました。
その一言で、一気に楽になったのを覚えています。
分からなかったのは自分だけではなかったし、分からない状態は失敗でも間違いでもなかった。
それからは、分からないときに無理に分かったふりをしないようにしました。
「今はまだ分からないと思っています」「判断するには情報が足りない気がします」と言えるようになったことで、数字は少しずつ怖くなくなりました。
今でも、数字がすぐ分からないことはあります。
でも、それで仕事が止まることはありません。
分からないまま進めるところまで進めて、必要なところで誰かと一緒に拾う。
それで十分だと今は思っています。
まとめ
入社前に、全部分かるようになる必要はありません。
数字はすぐに分からなくていい。
分からない状態で現場に入って、分からないまま進んで、少しずつ拾われていく。
それが実際の仕事の始まり方です。
不安になったら、そういうものだったなと思い出してください。
まあ、いっか。

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