入社前に 先輩からひとつだけ

判断は ひとりで抱えなくていい

入社前のこの時期に、ちゃんと判断できるだろうかと不安になる人は少なくありません。
仕事では判断が必要だと聞きます。
Webディレクターは決める役割だとも聞きます。
分からないまま進めてはいけないとも聞きます。

そうやって話をつなげていくと、いつの間にか「判断は一人で背負うもの」というイメージができあがります。
それが入社前の不安を、少し重たくしている原因でもあります。

先に一つだけ伝えておきたいことがあります。
判断は、ひとりで抱える前提でできていません。

現場では判断は共有され、揺れ、補われながら形になります。
誰かが全部を背負って決め切っている場面は、実はそれほど多くありません。

この回は入社前の人に向けた話です。
今はまだ現場を知らなくていいです。
判断ができなくてもいいです。

ただ、ひとつだけ知っておくと楽になる考え方として、「判断はひとりで抱えなくていい」という前提を置いておきます。
それだけで入社後の見え方が、少し変わります。

判断をひとりで背負ってしまいやすい理由

判断をひとりで抱えてしまう人は、責任感が強い人です。
ちゃんとやりたい。
迷惑をかけたくない。
早く役に立ちたい。

特に入社前は、自分はまだ何もできないという感覚を持ちやすいです。
その分、判断で失敗したくないという気持ちが強くなります。

加えて、仕事の説明を聞く段階では、判断は整理されたものとして語られがちです。
AかBかを決める。
正解を選ぶ。
最終判断を下す。

この説明だけを聞くと、判断は個人の中で完結する行為のように見えます。
けれど、実際の現場での判断はもう少し違います。

現場では、判断は情報が完全に揃っていない状態で行われます。
前提が共有されきっていないこともあります。
関係者の認識がずれていることもあります。

その中で「とりあえず今はこうする」という仮の線を引きます。
それが現場で言う判断です。

入社したばかりの人が戸惑うのは、自分の中に判断の材料が少ないからではありません。
判断が最初から一人で完結するものだと思い込んでしまうからです。

実際には、判断は会話の中で形になります。
確認の中で修正されます。
レビューで前提が補われます。

ひとりで背負う判断は、現場ではあまり長続きしません。
続いている判断は、だいたい誰かと共有されています。

コラム|判断をひとりで抱えていた頃の話

新人の頃、私は判断をひとりで抱えるタイプでした。
抱えているつもりはなく、自分が決めなければいけないと思い込んでいました。

ある案件でUI文言の調整を任されたときのことです。
内容としては大きなものではありませんでした。
ただ、前後の画面との関係が少し複雑でした。

私はどの言葉を選ぶか、どこまで説明を書くか、その判断をすべて自分の中で完結させようとしました。
正解が見えませんでした。
過去の画面を見ても表現が揃っていませんでした。
仕様書にも答えはありませんでした。

それでも私は「ここで聞いたら迷惑かもしれない」と思いました。
もう少し考えれば分かるかもしれないとも思いました。
そうやってひとりで考え続けました。

結果として、提出した案はレビューでかなり変わりました。
そのとき私は、自分の判断はダメだったと感じました。

でも、レビュー後に先輩と話したときにもらった言葉は違いました。
「これ、ひとりで抱えなくてよかったやつだね。」

その一言で、私は初めて自分が何を間違えていたのかに気づきました。
判断の内容ではありませんでした。
判断の置き場所でした。

先輩は続けて言いました。
判断は材料が揃っていないと重くなる。
だから揃っていない段階で共有していい。

それ以降、私は判断を抱え込む前に途中経過を出すようになりました。
ここまでは分かっている。
ここからが迷っている。
前提はこれで合っているか。

それだけで判断はひとりのものではなくなりました。
不思議なことに、そのほうが結果的に判断は早くなりました。
修正も小さくなりました。

振り返ると、新人の頃の私は判断をひとりで抱えることで、責任感を示そうとしていたのだと思います。
でも現場で求められていたのは、判断を独り占めすることではありませんでした。
判断をちゃんと開くことでした。

入社前で不安を感じている人がいるなら、この話をそのまま覚えておく必要はありません。
ただ「判断はひとりで抱えなくていい」という一文だけ、頭の片隅に置いておいてもらえたら十分です。

まとめ

入社前に全部できるようになる必要はありません。
判断力も最初から完成しているものではありません。

判断は分からない状態から始まり、誰かと共有され、少しずつ形になります。
ひとりで抱えなくていいです。
それは甘えていいという話ではありません。
仕事の進め方として、そちらのほうが自然だという話です。

もし入社後に判断に迷う場面があったら、自分はまだ途中なんだなと思ってください。
それで十分です。

この文章を読み終えたとき、不安が全部消えていなくても構いません。
ただ「まあ、いっか」。
そのくらいの軽さで次の日を迎えられたら、それが正解です。

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投稿者

小川 紗英
小川 紗英
UIデザイナーからUXライターへ転身。SaaS開発チームでの経験を活かし、「デザインと言葉の橋渡し役」として活動中。UI文言やオンボーディング設計、エンプティステートなど、プロダクト体験を支える言葉づくりを得意とする。