あなたがまだ知らない Webの現場の本当の姿

気持ちを整える仕事が いちばん見えない

Webの仕事と聞くと、デザインやコード、企画書や数値の話を思い浮かべる人が多いと思います。
実際、それらは分かりやすい成果として目に見えますし、「仕事をしている感」もあります。
でも、現場に入ってみて最初に戸惑ったのは、それ以外の時間が思っていた以上に多いということでした。

誰かの不安をなだめる。
空気が荒れないように言い回しを考える。
今は言わないほうがいいことを飲み込む。
逆に、今言わないと後でこじれることを拾いに行く。

こうした作業は、タスク管理ツールにも、成果物一覧にも、ほとんど残りません。
それでも、これが抜けると現場は簡単に詰まります。
今回は、あまり語られないけれど、Webの現場では確実に存在している
「気持ちを整える仕事」について書いてみます。

それ、仕事なの?と言われがちな作業たち

現場でよくやっていることを並べてみると、たぶん外から見ると首をかしげられます。
ミーティング前に、参加者それぞれの立場を頭の中で整理する。
Slackに書く一文を、何度か消しては書き直す。
「これ、誰が言うと角が立たないかな」と考える。

これらは、どれも成果物にはなりません。
工数としても説明しにくい。
でも、やらないと確実に面倒なことになります。

例えば、ほんの一言の言い回しで、相手の受け取り方が変わることがあります。
仕様の話をしているだけなのに、なぜか感情の話になる。
そういう場面は、Webの現場では珍しくありません。

ここで必要なのは、正論でもスキルでもなく、
「今、この人はどんな状態なのか」を読む力だったりします。
そして、その調整がうまくいったときほど、何も起きません。
何も起きないから、仕事をした実感も残りにくいのです。

気持ちを整える仕事は 評価されにくい

この手の仕事がやっかいなのは、評価されにくいところです。
問題が起きなかった場合、
「そもそも問題がなかった」と認識されがちです。

逆に、少しでも歯車がずれると、
「あのとき、ちゃんと確認してなかったのでは?」
「もっと早く言ってくれればよかったのに」
と言われてしまう。

うまくいって当たり前。
うまくいかなければ責任が浮上する。
この構造は、なかなか厳しいです。

それでも現場では、誰かがこの役割を引き受けています。
ディレクターだったり、PMだったり、時にはデザイナーやエンジニアだったり。
肩書きに関係なく、その場を壊さないための調整役が自然に生まれます。

面白いのは、その人たちが
「自分は大したことをしていない」と思っていることが多い点です。
目に見える成果がないから、自分の仕事を過小評価しやすい。
でも、周りから見ると「その人がいないと困る」存在だったりします。

Webの現場は 論理だけでは回らない

Webの仕事は、合理的でロジカルな世界だと思われがちです。
確かに、数字や仕様、データは重要です。
ただ、それだけで現場が回るかというと、答えはNOです。

どんなに正しい提案でも、
出すタイミングを間違えると反発されます。
どんなに合理的な判断でも、
説明の順番を誤ると納得されません。

ここで必要になるのが、
「何を言うか」ではなく、「どう届くか」を考える作業です。
これは感覚の話ではありますが、完全に勘でもありません。

これまでのやり取り。
相手の余裕のなさ。
チーム全体の流れ。
そうした情報を総合して、言葉を選びます。

この工程は、表に出ません。
でも、ここを雑にすると、後工程がすべて重くなります。
修正が増え、説明が増え、関係がぎくしゃくする。
だから結局、見えないところでの調整が、いちばん効くのです。

気持ちを整える仕事は スキルなのか?

新人の頃、私はこの手の仕事を
「自分が気にしすぎなだけなのでは?」と思っていました。
勝手に気を回して、勝手に疲れている。
そう感じることもありました。

でも経験を積むにつれて、少し見方が変わりました。
気持ちを整える仕事は、才能ではなく経験値に近いと感じるようになったからです。

最初は失敗します。
言いすぎた。
言わなさすぎた。
後出しになった。
その積み重ねで、「このくらいがちょうどいい」が分かってきます。

そして、この感覚は一度身につくと、
別の現場でもちゃんと使えます。
業界が違っても、職種が変わっても、
人が集まる場所では必ず役に立つ。

つまりこれは、ちゃんとしたスキルです。
ただし、履歴書には書きにくいし、
成果物として提出もできない。
だから見えにくいだけなのです。

見えない仕事が 現場を前に進めている

Webの現場には、
「これ、誰がやってるの?」という作業がたくさんあります。
仕様の隙間を埋める。
認識のズレを戻す。
空気が悪くなる前に話題を切り替える。

これらは、誰かがやらなければ、確実に問題になります。
でも、やったことはほとんど記録に残らない。
だから、「まだ知られていない仕事」になりやすい。

もし、今の仕事が
「なんだか説明しづらいけど、これがないと回らない」
という感覚を伴っているなら、
それはかなりWebの現場らしい仕事をしています。

大変さを強調したいわけではありません。
むしろ、それはちゃんと価値のある仕事だと伝えたい。
見えないからといって、軽いわけではありません。

知られていないけど 確かに存在する仕事

Webの現場の本当の姿は、
華やかな成果物の裏側にあります。
誰かが感情を整え、流れを整え、関係を整えている。
そのおかげで、表に出る仕事がスムーズに見える。

気持ちを整える仕事は、いちばん見えません。
でも、いちばん影響力があります。
それを知っているかどうかで、
現場の見え方は少し変わると思います。

「知られていない仕事がある」
その前提を持っているだけで、
Webの現場はもう少し立体的に見えてきます。

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投稿者

藤井 真帆
藤井 真帆
編集プロダクション出身。働き方やキャリア形成をテーマに、Webディレクターやクリエイターの“リアルな悩み”に寄り添う記事を多く執筆。取材経験を活かし、読者の気持ちに近い視点で「働き方を整えるヒント」を発信している。