沈黙のレビュー時間を打破する、視覚的ファシリテーションの魔法
デザインレビューって、なんであんなに重いんでしょうか。
画面を共有して、ワイヤーやデザインカンプを映して、「いかがでしょうか?」と聞く。そのあとに来る数秒間の沈黙、あれが地味にきついんですよ。
しばらくして誰かが言う。「特にないです」。
いやいや、そんなはずはないんですよ。全員この画面を初めて見てるじゃないですか。意見がないわけがない。
でも「特にないです」で会議が終わる。そして数週間後に「実はここ気になってたんですよね」が出てくる。あのとき言ってくれ、というやつです。
若手の頃、沈黙を「合意」だと思っていた
ディレクターになりたてのころ、レビューで沈黙が続いたとき「ああ、問題ないんだな」と思ってました。
「いかがでしょうか?」→しばらく待つ→「特にないです」→「じゃあこの方向で進めましょう」。
自分の中では、スムーズに合意が取れた、いい会議だった、という感覚。
でも実装が進んで、デザインの細部が固まってくるころに出てくるんですよね。「あ、この部分、こうじゃない方がよかったですね」「ここ、もうちょっとこうできますか」。
全員、最初から思ってたんです。ただ、言わなかっただけで。
そのころ気づいたんですけど、沈黙って「意見がない」じゃなくて「言葉にするコストが高い」ことが多いんですよ。頭の中ではなんとなく引っかかっているものがあっても、それを会議の場で言語化して、ちゃんと伝えて、議論になって、もし否定されたら……というコストを計算すると、「特にないです」になる。人は面倒を避けるし、場の空気を乱したくない。それだけの話だったりします。
言葉で聞くと出てこないのに、書くと出てくる
ここで一個、面白いことに気づいたんですよ。
口頭で「意見ありますか?」と聞くと出てこないのに、付箋に書いてもらうと出てくる。
試したのは、レビュー会議の最初に「気になるところ・いいと思ったところを付箋に書いてください」と言って、3分間書く時間を取るやり方です。全員が書いている間は誰も発言しない。書き終わったら、順番に貼っていく。
そうしたら出てくる出てくる。「ここのボタン、押しにくいかも」「このテキスト、ちょっと読みにくい」「全体的にいいと思うけどここだけ違和感」。さっきまで「特にないです」の人たちが、たくさん書いてる。
言葉で話すのと、紙に書くのって、脳みその使い方が違うんだと思います。話すときは「その場でちゃんと言える形にしないといけない」というプレッシャーがある。書くときはまず自分の中で考えを整理できる。その差が、出てくるものの量に表れてくる。
視覚的ファシリテーションって何か
ここで言葉を整理しておきます。
視覚的ファシリテーション(ビジュアルファシリテーション)とは、会議や場の内容を図・絵・付箋などの視覚的な要素を使って整理・共有し、参加者の思考と対話を助ける手法のことです。
通常のファシリテーションが「言葉で場を進める」とすると、視覚的ファシリテーションは「見えるものを使って場を進める」イメージで、Webディレクターのレビュー場面で使いやすいのはホワイトボード・付箋・共有スライドへのリアルタイム書き込みあたりです。オンラインならMiroやFigJamが定番ですね。
誤解されがちなのが「絵が上手くないとできない」という思い込みで、実際は図の上手さより「見える場所に出す」こと自体に意味があります。箱と矢印が書ければ十分で、アート作品を作る必要はないです。
使いどころとしては、レビュー・ブレスト・仕様整理・振り返り、どれにも使えますが、特に「言葉だと議論が噛み合わない」「全員の認識がバラバラかもしれない」という場面で威力を発揮します。
KJ法、知っておくと便利
あわせて覚えておきたいのがKJ法です。
KJ法(川喜田二郎法)とは、バラバラな情報やアイデアを付箋などに書き出し、似たもの同士をグループ化して整理していく手法です。考案者の川喜田二郎氏のイニシャルを取って名付けられました。
使い方はシンプルで、①テーマに対して思ったことを付箋に1枚1件で書く、②全部出し終わったら似ているものを近くに置く、③グループに名前をつける、というステップです。
レビュー会議でいうと、各自が気になる点・いいと思った点を付箋に書いて貼り出してグループ化すると、「デザインのトーンに関する意見」「情報の優先度に関する意見」「操作性に関する意見」みたいに分類できるんですよね。どこに意見が集中してるかが見えると、どこから議論すべきかが自然と分かってくる。
誤解されがちなのは「KJ法はブレスト専用」という思い込みで、レビューの意見整理にも普通に使えます。むしろ意見が分散しがちなレビューの場面にはかなり向いてる。
現場でやっていること、具体的に
視覚的ファシリテーションを実際のレビューに取り入れてやっていることをまとめます。
① 最初の3分で付箋タイムを作る
画面共有してすぐ「いかがでしょうか?」じゃなくて、「まず3分、気になるところといいと思ったところを付箋に書いてみてください」と言う。オンラインならMiroやFigJamにみんなが書き込む時間を作る。オフラインなら物理の付箋でOKです。
この3分、最初はちょっと気まずいんですよ。全員黙って書いてるから。でも終わってみると、だいたい一人5〜8枚は出てくる。「特にないです」の人が8枚書いてたりする。
② 貼り出したあとは「グループ化」から始める
付箋が出そろったら、似ているものを近くに動かしていく。これ、参加者みんなでやると場が動き始めるんですよね。「これってこっちじゃないですか」「あ、これと同じこと書いた」みたいなやりとりが生まれる。グループ化の過程で「あ、みんなここ気になってたんだ」という共通認識ができて、最初から言葉で聞いても出てこなかったものが、付箋を動かす作業の中で可視化されていきます。
③ 「どこから話すか」をドット投票で決める
意見がたくさん出ると、どこから話すか迷います。そのとき「大事だと思うものに印をつけてください」とドット投票(シールや○を書く)をやると、優先度が見える化されます。「これ全員が気にしてたんですね」「これはAさんだけですね」という差が出るので、議論の優先順位が自然に決まります。多数決と違って、少数意見も残るのがいいところです。
④ 決まったことをその場でホワイトボードに書く
レビューで決まったことを口頭だけで共有すると、あとで認識がずれていることがある。その場で「じゃあここをこうする」と大きく書く。全員が同じものを見ながら確認できるので、「あれ、そういう話でしたっけ」が減ります。
「見える」だけで、場が変わる
付箋一枚って、言葉より軽いんですよね。発言するのと書くのとでは、出てくるものが変わる。付箋は「声の代わり」みたいなもので、言葉で言えないことが書けることがある。
「特にないです」だった会議が、付箋を出した途端にざわっとし始める。あれ、毎回ちょっと好きです。
視覚的ファシリテーションって、難しいものじゃないです。付箋を出す、書く、貼る、動かす。それだけで場が変わります。明日のレビュー会議、最初の3分に付箋タイムを入れてみてください。「特にないです」が減ります。
