『Canvaでいいじゃん』への抵抗。ディレクターがPhotoshopを捨てられない理由
「Canvaで全部できるんで、Photoshopいらないですよ」って言い切ったこと、俺にはあります。
テンプレ豊富、操作は直感的、しかも無料。Photoshopの月額をAdobeに払い続けるの、意味なくない?って本気で思ってた。
その考えが崩れたのは、バナーの入稿案件でした。「データはPSDで納品してください」の一文で、「あ、Photoshopいるじゃん」という事実が刺さった。準備ゼロ。全然笑えない。
「Canvaで全部できる時代」に本当になったのか
Canvaの進化、正直めちゃくちゃ速い。AI機能で背景を消せるし、テキストエフェクトも充実してきたし、チームでリアルタイムに編集できるし、素材もテンプレも豊富すぎるくらいある。WebのSNSバナーとかプレゼン資料くらいなら、Canvaで完結する場面は確実に増えてる。
でも「全部できる」は違う。今でも。
入稿データ、クライアントからのPSDの確認・修正依頼、印刷物まで含む制作物、そしてPhotoshopでないと管理できないレイヤー構造のデータ、この辺が絡んでくると、Canvaでは詰む。
俺が「Canvaで全部できる」と言い続けていたのは、詰む場面にまだ当たっていなかっただけだった。当たったときの恥ずかしさは、わりとしんどかった。
ちょっと前、ガチでCanvaで全部やろうとしてた
少し前、Photoshopを「デザイナーのツール」だと思ってた。俺には関係ない、使えなくていい、みたいな認識。
バナーが必要な案件があれば「デザイナーさんにお願いします」、確認が必要なPSDが来ても「開いて見るだけなら」でなんとなく開いてた。レイヤーが何十層も重なってて何がなんだかわからなかったけど、「大体こんな感じですね」って言い続けてた。完全にわかってないやつの返答。
そのころCanvaが使いやすくなってきて、「じゃあ俺はこっちでいいじゃん」という感じで移行した。バナー素材くらいなら自分で作れる、デザイナーに依頼しなくていい場面が増える、それは実際そうだった。
ただ、Adobe CCの契約だけは切れなかった。会社のライセンスがあったし、なんとなく「Photoshopいらなくなった」と言い切れないモヤモヤがずっとあった。
Canvaでやらかした話
バナーをCanvaで作って「完成です!」と持っていったとき、「印刷物にも使うので、高解像度のデータをください」と言われたことがあります。Canvaでダウンロードしたデータを渡したら、「解像度が低くて印刷に使えないです」という話になった。
Canvaの無料プランでは300dpiの書き出しができなかった時代の話でもあるし、今は対応しているプランもある。でもそのとき俺は「解像度ってなんだっけ」という状態だったので、そもそも確認する視点がなかった。
Photoshopを使い慣れていれば、新規ドキュメント作成の時点で「Web用か印刷用か」「解像度は何dpiにするか」を設定する感覚が身についている。Canvaを使っていると、この設定を意識する場面がそもそも少ない。「ツールが便利になることで、考えなくていいことが増える」というのは利便性なんですが、同時に「考えなくなってしまうスキル」が出てくるという話でもある。
レイヤーマスクを覚えた話をさせてほしい
Photoshopの機能の中で、俺が一番「これ知っておいてよかった」と思ったのが、レイヤーマスクです。
レイヤーマスク(Layer Mask) は、Photoshopで画像の一部を「非破壊的に隠す」機能です。「非破壊的に」というのは、元の画像データを消すんじゃなくて、「見えなくする」だけ、ということ。マスクで隠した部分は、後からマスクを編集すればいつでも復元できます。
わかりやすく言うと、「人物写真から背景を消す」という作業をするとき、Canvaの背景除去機能を使うと1クリックで消えて便利ですが、消した後に「やっぱり一部だけ残したい」となったとき、戻しにくい。レイヤーマスクなら、消した後でも「ここだけ戻す」「ここだけもう少し消す」を何度でも調整できる。
よくある誤解は「消去ツールで消すのと同じ」という認識です。 消去ツールで消すと、そのピクセルは本当に削除されます。元に戻せるのは作業履歴の範囲だけで、ファイルを保存して閉じたら戻せない。レイヤーマスクは元データを保持したまま「非表示にする指示」を重ねているだけなので、何度でも戻せる。この差は、修正が頻繁に入るバナー制作では本当に大きい。
使いどころとして一番出番が多いのは、クライアントのバナー修正依頼です。 「この人物を別の写真に差し替えたい」「背景の一部だけ変えたい」というとき、レイヤーマスクで管理されているデータなら差し替えが楽。逆にマスクが使われていないデータは、修正の度に作業が発生する。PSDを受け取ったとき、レイヤーマスクが使われているかどうかを確認できるかどうかで、「このデータ、修正しやすい?」の判断ができる。
これを知ってから、Photoshopへの見方が変わった。「デザイナーのツール」じゃなくて「修正管理ツール」としてのPhotoshopが、急に実用的に見えてきた。
ディレクターがPhotoshopを使う「最低限」
俺がPhotoshopで実際にやっていることを列挙すると、バナーのPSDを開いてレイヤー構造を確認する、テキストの差し替えを自分でやる、色の確認と軽い修正をする、書き出し設定を確認して書き出す、この4つです。
フォトレタッチや複雑な合成はデザイナーさんに任せる。でも上の4つができると、「デザイナーさんに確認してもらいます」の往復が減る。その差は、1案件の中で積み重なると地味に大きい。
「Canvaでいいじゃん」の気持ちは今も全部は消えていないし、SNSバナーとか社内資料はCanvaで作ることの方が多い。ただ、Photoshopを使う場面は確実に残っていて、「使えるか使えないか」の差が現場でそのまま出てくる。
ツールを全部極めなくていいけど、捨てていい理由が揃っていないうちは、捨てない方がいい。Photoshopを手放せないのは愛着じゃなくて、手放せない場面がまだあるからです。それだけの話なんですよね。
Canvaとの付き合い方、結論
整理すると、俺の中での使い分けはこうです。
Canvaでいい場面 は、SNSバナー、社内向け資料、テンプレートで完結するもの、チームで共有してサクッと作りたいもの。これはCanvaの方が速い。
Photoshopが必要な場面 は、入稿データの確認・修正、印刷物も含む制作物、クライアントから来るPSDの対応、デザイナーさんとのデータのやり取り。ここを外すと現場で詰む。
「Canvaでいいじゃん」は間違いじゃない。ただ「Canvaしかできない」は、ディレクターとして見えていない場面が出てくる。両方持っておいて、場面で使い分ける。それが今の俺の答えです。
Adobe CCの費用は毎月「高いな」と思いながら払ってますが、詰まらないための保険だと思えば安いと思うようにしました。完全に言い訳だとしても、現場では使える言い訳です。
