トラブルが起きたとき、気づけば口にしている言葉がある。
「俺がやるよ」。
一見、頼もしく聞こえる。
でもこの一言が、チームを静かに弱らせることがある。
俺はそれを、何度も経験した。
現場を救うつもりで動いたのに、
気づけば誰も相談してこなくなり、
最終的に自分だけが汗をかいていた。
今回は、そんな“ベテランの罠”について話したい。
現場を回す側に立つ人間ほど、
どこで手を出し、どこで任せるかを見誤りやすい。
目次
“助けたい”が“奪う”に変わる瞬間
新人や中堅が困っているのを見ると、
つい手が出る。
「俺がやるよ」「時間ないだろ」「これ、こっちでやっとく」。
悪意なんてない。むしろ善意だ。
でも、その瞬間にチームの成長の機会をひとつ奪っている。
ベテランの「助け」は、時に“依存の起点”になる。
次も頼まれる。
気づけば、自分の手元に仕事が積み上がる。
俺もかつて、
「やってもらっていいですか?」が日常化した現場を作った。
最初は感謝される。
けど、最終的には誰も責任を取らなくなる。
“優しさの過剰供給”は、現場を脆くするんだ。
“ベテランの癖”は、自分の首を締める
長くやってると、判断が早くなる。
経験があるぶん、答えが見える。
だから、もどかしくて手を出してしまう。
「俺がやったほうが早い」
「これ説明する時間で終わる」
たしかに早い。
でも、その“早さ”は一時的なものだ。
そのあと、同じ相談が何度も来る。
現場の疲労は、自分の手際の良さが生んでいた、
そう気づくのに時間がかかった。
手際のいいベテランほど、
“自分がボトルネックになっている”ことに気づかない。
“俺がやる”を封印する3秒ルール
今の俺は、「俺がやるよ」と言いたくなったとき、
3秒だけ黙る。
その間に考えるのは3つだ。
- 今やるのは“俺が早いから”なのか、“彼がまだ慣れてないだけ”なのか
- この対応を渡せば、次から任せられるか
- この瞬間に手を出すことで、チームの流れがどう変わるか
この3秒で、だいたい答えが出る。
本当に自分がやるべきときもある。
でも、「今は待つ」が必要なときも多い。
現場のリズムを守るには、焦りより間合いが大事だ。
“任せる”のは放置じゃない
「任せる」って言葉を、“放り出す”と勘違いしてる人は多い。
任せるには、準備がいる。
状況を説明し、判断の基準を共有し、
最終確認のタイミングだけを握る。
それで十分だ。
俺はいつもこう伝える。
「失敗してもいいから、どこで迷ったか教えてほしい。」
この言葉があるだけで、
メンバーは安心して挑戦できる。
逆に、ただ“放置”された現場は乾く。
湿度のない空気では、誰も踏ん張れない。
任せるとは、支える準備をして待つことなんだ。
“できる人”が抱えすぎる現場の末路
ベテランが「俺がやるよ」を積み重ねると、
現場のリズムが歪む。
・自分に確認が集中する
・他メンバーの判断が遅くなる
・チームが「待ち」の姿勢になる
この連鎖が起きると、
一見まわっているように見えて、
実際は“一人で支えてるだけの現場”になっている。
そしてある日、体調を崩すか、別案件が重なった瞬間に崩れる。
俺もかつてそれを経験した。
倒れたのは自分だけど、チーム全体が止まった。
あれは、誰のせいでもない。
ただ、俺が“抱えすぎていた”だけだ。
“譲る勇気”がチームを強くする
経験を積んだディレクターの仕事は、
「全部できるようになること」ではなく、「手を離すこと」。
俺は今、
「これ、任せてもいいですか?」と聞かれたら、
一度深呼吸して「うん、頼む」とだけ返すようにしている。
たとえ、段取りが荒くても、
報告が遅くても、
その失敗がチームの筋肉になるなら意味がある。
ベテランがやるべきは、“守る”ことじゃなく“渡す”こと。
そのほうが、現場はしなやかになる。
“俺がやるよ”の先にある孤独
俺が手を出しすぎていた頃、
いつの間にか誰とも本音で話せなくなっていた。
チームメンバーは「西田さんがやってくれるから」と遠慮し、
俺は「みんなを守るのは自分だ」と思い込んでいた。
でも、それは守ってるんじゃなく、壁を作ってたんだよな。
誰かが「任せてください」と言ってくれたとき、
やっとその壁が崩れた気がした。
“俺がやるよ”じゃなく、
“頼んだ”と自然に言えるようになったとき、
チームはようやくチームになる。
“背中”で教える段取り
今は、若手が焦ってるときほど、
俺はあえて手を出さず、
作業の流れを見える形で整えることを意識してる。
・タスクを分解して一覧化
・判断の基準をSlackに残す
・チェックの順番を固定する
これだけでも、現場の湿度が保たれる。
人が迷わなくなると、会話が増える。
チームに流れが戻る。
ベテランの段取りは、“先回り”じゃなく“見守り”だ。
背中で整える。
その地味さこそ、現場を守る力になる。
チームを“保つ”ベテランの3原則
- 「俺がやるよ」を減らす勇気
助けたい気持ちが、チームを弱らせることもある。 - 任せるための準備をする
放置ではなく、支える設計を先に組む。 - 手を出さず、流れを整える
背中で示す段取りが、現場の湿度を保つ。
現場を回すベテランの責任は、
全部を背負うことじゃない。
次の世代が汗をかける場所を残すこと。
“俺がやるよ”と手を伸ばしたくなる瞬間、
その手を少し引いて、流れを見守る。
その余白があるチームは、
いつか誰が抜けても回り続ける。

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